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現在の代表理事挨拶

 
辻 彰

平成24年11月
辻 彰 (金沢大学名誉教授)

 我が国固有の社会的・制度的事情の障害に加え、グローバル治験の進展により、「治験の空洞化」と「医薬品開発の空洞化」現象が起きております。その要因の一つに1998年からの新GCPの完全実施が挙げられますが、動物実験で安全性や有効性が認められた候補薬物が臨床試験段階で臨床的有用性が認められないことが大きな要因となっております。最新の薬物動態学的見地から検証しても、特に経口剤において、動物実験からはヒトの体内動態・薬効はヒトに適用しない限り予測できないことが開発上の支障となっております。したがって、疾病治療上ヒトで有用な候補薬を適切に選択し、効率的にまた成功確率を高めるためには、ヒトでの動態や作用を医薬品開発の早期の探索段階で明らかにしておくことが重要です。しかし、早期探索臨床試験が制度上できない我が国の製薬企業では、欧米にその試験を委託せざるを得ない状況にありました。

 このような現状を打開するため、我が国における早期探索的臨床試験制度の確立とその実施体制の整備を目指して、日本薬物動態学会と薬物動態談話会からの出資により有限責任中間法人(法改正により2009年から一般社団法人に変更)「医薬品開発支援機構(APDD)」が2005年12月に設立されました。APDDはこれまでに、シンポジウムの開催や関連学会での活動を通して放射性標識体の投与を含めた早期探索的臨床試験の啓発活動を展開してきました。2008年6月にAPDD作成の草案を基とした「マイクロドーズ(MD)臨床試験実施のガイダンス」が、続いて2010年2月に「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床試験の実施についてのガイダンス」が通知されたこと、さらに14C放射線被ばくを伴うMD臨床試験がAPDDのプロジェクトにより遂行されたことにより、我が国におけるMD試験の実施基盤が確立しました。

 これらを背景に、APDDは早期探索的臨床試験の国内実施に向けた体制整備を進め、2012年には臨床試験実施機関として北里大学臨床試験事業本部(KitARO)をはじめ臨床薬理の専門家を擁する6大学病院のARO (Academic Research Organization)とのネットワークを構築するとともに、「専門アドバイザリーボード」および「放射線被ばく・倫理審査委員会」の設置など、MD試験・早期探索的臨床試験実施のフルサポート体制を構築しました。APDDは今後、大学などアカデミアの研究機関、創薬ベンチャー、製薬企業において開発中の新薬の早期探索臨床試験を積極的に支援する所存です。これによって、PETなどの分子イメージング手法を組み合わせたMD試験が適宜利用され、ヒトにおける血中動態、代謝プロファイル動態に優れ、分子標的への到達効率に基づく薬効が期待でき、副作用が少ない新薬候補化合物選択の成功確率が高まることが期待されます。

APDDはこの支援以外にも、医薬品開発の仕組み・方法に関する実践的・啓発的活動、臨床試験の支援事業、審議を委託された臨床試験の倫理審査、医薬品開発上重要なガイドラインの原案の提言、などの事業を行います。我が国における優れた医薬品の研究開発促進と必要とする患者への迅速な提供に関与できるよう努力いたします。

本法人の活動につき関係諸機関・団体の御賛同とご協力をお願いする次第です。

 



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