代表理事挨拶

 
池田敏彦

平成28年6月

池田敏彦
(元) 横浜薬科大学 教授
(元) 東京大学大学院薬学研究科 特任教授
(元) 三共竃剤動態研究所 所長

 医薬品は、人々の幸福な生活のために必要不可欠なものの一つです。近代に入って平均寿命が延びてきたことの背景に、切れ味の鋭い医薬品の登場があることは間違いありません。しかし、現代においてもなお、有効な治療法がない疾病もあり、まだまだ多くの新薬が必要とされています。従って、これからも優れた薬を作り出すために世界中の製薬会社がしのぎを削っていくであろうと考えられます。一方で、医薬品の研究開発には10年以上の年月と莫大な資金が必要であり、最近のグローバリゼーションの波の影響もあって、製薬企業間の競争は世界的規模に拡大され、ますます熾烈になってきています。残念ながら、最近ではなかなか効率よく新薬が開発できない傾向が続いています。我が国の医薬品産業も、世界の中で良く健闘しているものの、この状況から抜け出せているわけではありません。

  我が国の製薬企業が、研究開発力において外国と比較して劣っているとは決して思えません。しかし、毎年承認される新薬の数においては日本の製薬企業は外国の後塵を拝しているように感じられます。それにはいくつかの理由があるのですが、その一つとして候補化合物の薬効などをヒトで確認する段階、すなわち臨床試験の段階が他国と比べて効率が良くないことがあります。また、この段階で後述のマイクロドーズ試験のような新しい試験方法を取り入れることに対して必ずしも積極的ではない風潮があります。つまり、研究所では先端的方法論を積極的に取り入れて新薬を探索しているのに対して、一旦、化合物が研究所を出てしまうと、たちまち先進性を失い、日常性に埋没した低効率の枠組みに入り込んでしまうのです。もちろん、ヒトを対象とする試験ですから手順を踏まずに拙速に走ることは危険です。しかし、欧米の企業も臨床試験の実施においては我が国とまったく同じ縛りがかけられているのですから、何か構造的な問題が我が国に潜在しているとしか考えられません。

  APDDは、我が国ではなかなか実施されにくかった臨床試験を積極的に進めるための環境整備と啓蒙に努めています。以前から、ヒトに放射性同位元素(RI)で標識した薬物を投与する臨床試験が、日本で実施されてはいませんでした。法律的には問題がないとされていますが、我が国でのRIに対するネガティブな感情を慮って、これまで実施されなかったのです。しかし、この試験では代謝物に関するデータなど、非常に有益な情報が得られるので、製薬企業はこの試験を外国で実施しています。その結果、日本人について、このような重要な情報が得られないままになっています。これに限らず、有用な臨床試験であってもなんらかの障害で実施困難な状態が続くことをなんとか打開すべく、2005年にAPDDが設立されました。以降、初代代表理事高仲 正先生および第2代代表理事辻 彰先生のリーダーシップのもとで、数多くの啓発的シンポジウムの開催、マイクロドーズ臨床試験実施のガイダンスに対するドラフトの起草(2008年に当該ガイダンス成立)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)橋渡しプロジェクト:「マイクロドーズ臨床試験を活用した革新的創薬技術の開発」の受託(プロジェクトリーダー 杉山雄一APDD理事 現理化学研究所特別招聘研究員)など、多くの活動を行ってまいりました。2009年には長半減期放射性核種である14Cで標識した薬物をマイクロドーズで投与する試験が成功裡に実施され、マイクロドーズ臨床試験の実施基盤とともに、放射性標識薬物を投与する試験の実施基盤が確立されました。これまで、長い間我が国では実施されることのなかったRI臨床試験が我が国で実施できたことはAPDDの大きな成果の一つです。

 これにとどまらず、2012年には北里大学臨床試験事業本部(KitARO)をはじめ6つの大学病院のAROとネットワークを構築し、マイクロドーズ臨床試験や早期探索臨床試験実施のフルサポート体制を構築しました。放射性標識化合物を投与する際の放射線内部被曝評価やその際の倫理審査も含め、これからもAPDDは我が国における新薬の早期探索臨床試験を積極的に支援してまいります。

 関係諸機関・団体の皆様におかれましては、APDDの活動に対するご賛同と倍旧のご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

 

 


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